杉谷医師

病院長
内科部長

数年前、若い研修医の先生にメッセージを書いたことがあります。
その時は、「良きテニスマンは良きテニスコートを作り、良きコートは良きテニスマンを育てる。」という言葉を紹介しました。大学時代、雪に埋もれたコートを春に作り直す時に顧問の恩師に教わった言葉です。本当に良いテニス選手とは技術はもちろん人格にも優れ、テニスコートの作り方まで知っておかなければならない。つまり、プレー以外の裏方にも精通し、いい環境を作れる人でのことであり、優れた選手や指導者が作った良い環境の中でこそ素晴らしい選手が育つという意味でしょう。テニスマンを医者と言い換えれば、そのまま理想の医師像に当てはまると思います。 
よい医者になるためには、知識や技術を磨くのはもちろんですが、患者さんやスタッフと思いを共感しながら良い医療環境を作ることの大切さを今でも日々感じています。そんな志を持った指導医たちに囲まれながらの研修はきっとすばらしいものになるでしょう。

よい研修環境とは?

では、よい医者になるための経験を積んでいくのに「いい環境」とはどんな病院なのでしょうか?真っ先に思いつくのは、スタッフの数が多く最新の診断と治療を行っている設備の整った大病院でしょうか?多くの指導医がいて、豊富な症例と専門的な指導が受けられる恵まれた環境でしっかり勉強できることは間違いなくいいことです。しかし、そのような病院では研修医も多く、時には症例の取り合いになり、必ずしも多くの症例を経験できるとは限りません。めずらしい疾患や実技が十分に経験できないことすらあるでしょう。また、多くの指導医や研修医がいる中では、責任感が希薄となり技術や知識が思うほど身につかなかった研修医の実例も知っています。
現状では、すべての医師が都会の大病院や先進医療を行っている施設で一生働き続けられるわけではありません。むしろ設備やマンパワーの限られた環境の中で、軽症やcommon disease、そして多くの老人患者を担当し、患者さんの社会的な事情まで考慮しなくてはなりません。少々オーバーワークになりながらも使命感に燃えて日々の臨床を行っているケースがほとんどでしょう。複数の同僚と専門チームで先進医療に携わる医師は少なく、自分の専門分野を一人で担当しなくてはならない病院も多数あると思います。そのような病院に赴任しても責任を持って臨床をやりとげられる確固たる知識と技量を身につけるためには、時には能力以上を要求される難しい患者でも、主治医として責任を持って担当することも大切です。よく考え疑問を持ち、指導医の助言を聞きながら奮闘することが生きた経験となり、知識や技術が身につくのです。「お医者さん」という言葉がまだ通用する地方の病院では、患者さんは研修医に協力的で、じっくり患者さんに向き合い性格や家庭環境など、背景を考えながら臨床ができます。理想の医師像の実現を目指すにはいい環境です。限られた研修期間の中ではそんな経験を積む期間も必要です。大都会の大病院でできない経験ができる地方の病院での研修も一度はお勧めします。

さけさけ人情なさけの村上市

村上市は、新潟県最北・最東の市で面積は1,174.24km²で県内最大。人口は約6万人で8位です。鮭や鮎、〆張鶴と大洋盛の二大銘酒、風情ある町屋が残る城下町で、住む人の人情が自慢です。新潟市中心部から村上ICまで高速道路で約60km、自家用車で55分、電車では新潟駅から特急で46分です。村上医療圏は、現村上市に、粟島浦村と関川村をあわせた広大なエリアで、端から端まで60km、約7万人が対象です。受診に一時間以上かかることも珍しくなく、とくに冬の積雪期の救急搬送は大変です。独居の高齢者が多い当地区の医療事情は、わが国の地域医療の未来を先んじているともいえます。
そして当院から瀬波温泉まで5分、粟島へは高速船を利用して1時間少々と有名観光地に抜群のアクセスで、当院では、美食、銘酒、景勝地に恵まれた楽しい研修医生活が保証されます。

当院の特徴

当院は、昭和20年の県農業会村上診療所として始まり、人工透析や健診センター、訪問介護ステーションなどを増設しながら、現在に至っています。救急告示施設、災害拠点病院、へき地医療拠点病院などに指定され、地域医療の中核としての機能を担い、地域住民からは「むらびょう」の愛称で親しまれています。
病床数は263床で、診療科は、内科、外科、小児科、脳外科、整形外科、泌尿器科、産婦人科、歯科、麻酔科、耳鼻咽喉科、眼科、皮膚科です。常勤医は、内科8名(消化器3名、循環器1名、呼吸器2名、腎臓1名、健診1名)、外科が5名、脳外科、整形外科、小児科、歯科、検診科が2名ずつ、泌尿器科と麻酔科が各1名です。耳鼻科、眼科、皮膚科、神経内科、血液内科、内分泌内科は非常勤の出張医に外来をお願いしています。日常診療はcommon disease中心で、患者数は、外来、入院ともに多く、どの科も多忙ですが、自分の専門領域に限定せず広い分野を担当するため、科をまたいだまれな疾患に遭遇する機会もあり勉強になります。さらに、粟島浦村診療所とは回線をつないだTV診療(遠隔診療)に参加し、春の全島検診、夏期には粟島への出張診療など離島医療にも協力しており、僻地医療や遠隔診療の研鑽も可能です。

新病院移転

2020年12月、村上駅西側にヘリポートを有する地上5階建て、病床数267床の新病院に移転しました。私の所属する消化器内科では、内視鏡室が5室のコンパートメントと洗浄ブース、前処置とリカバリーベッドを備えた広いスペースとなりました。内視鏡systemは、Fujifilm medicalのLaser光源1台とOlympus ELITE2台に加え、最新のEVIS X1と最新の経鼻内視鏡(1200N scope)も導入しました。Fujifilm経鼻scope3本とOlympus超音波内視鏡装置(EUS)なども充実し、FNAも施行できています。
このたび、新病院への移転を機会に若い、研修医や専修医の先生に魅力ある研修環境と自由に選択できるプログラムを用意しました。さらに学会活動や日々の勉強会などの充実などソフト面の改善に取り組んでおり、活気のある病院になるよう努力しています。

最後にあらためて強調しておきたいのは、当院の研修環境の良さです。同僚の研修医は少ないかも知れませんが、大病院と違い、看護師や薬剤師、栄養士、各部門の技師などすべての医療スタッフが顔見知りになります。スタッフと顔の見える良好な関係の中でチーム医療を実践しており、冒頭で紹介した、いいコートでテニスができる環境にあります。
村上市で唯一の総合基幹病院なので、症例が少なくて困ることはなく、稀な症例にもしばしば遭遇できます。かといって、忙しすぎて勉強ができない環境ではありません。人情ある患者さんたちは研修に協力的なので、萎縮しながらの医療をせずに、高度な医療技術を研修することが可能です。是非、当院で研修してDrコトーを目指しませんか?